心不全加療におけるコメディカルの重要性

 みんなは、自分の体力について考えたことはある?
 
 日頃から運動をしている人は、結構体力のいるスポーツもできる。
 日頃から運動してなくて体力の無い人もいるけど、電車に間に合わないときは全力ダッシュも出来るし、階段を駆け上がることもできるよね(「はあはあ」いうけど)。
 
 
 ただ、健康な我々は、よほどの負荷をかけない限り、(肉体的な)体力を意識することはあまりない。それは、体力の「予備能」が有り余っているからだ。
 
 心不全患者さんはそうはいかない。
 心不全の重症度に「VO2」とか「最大酸素摂取量」とか出てくる。でもこういわれると、理解出来ない。
 そこで「体力」とするとすっきりくる。「同年代の人の体力の何パーセントだ」、とかね。
 
 若くて心疾患のない人は体力の予備能が有り余っているから、あんまりこれを意識しないよね。
 でも、この体力が低下して、日常生活にも支障が出てくるようになると、急に体力を意識するよね。「体力がなくなっちゃった」ときの症状ってなんだろう?
 
そう、「息切れ」だね。
貧血や肺疾患でも同様の症状が出現してくる。
 
 
 いつもの「心不全患者の人生経過」を考えよう。ここでは画像を出せないので、みんな頭に思い浮かべて欲しい。
 
 Stage Bは心疾患あり。多少の心疾患があってもほぼ無症状。
 オリンピック選手になる?なら問題かも?こういう人たちは、むしろStage Cにならない(入院しない)ことが大事。
 
 心不全で入院した人はStage Cになる。
 心疾患があることで多少心臓が無理をし始める。それが徐々に悪くなった状態。無理をすることで起きることはここでは省略する。
 
 話を変えるけど、人体はホメオスタシス(恒常性)を維持するように出来ている。
 甲状腺機能低下症では、「甲状腺刺激ホルモン」が増えることで、肝心の甲状腺ホルモンは維持される。
 
 同じように、心臓も「うっ血」することで心拍出量を維持しようとする。
 このうっ血が、軽度のうちは良いんだけど、徐々に悪さをする。
しかも、うっ血しても、それに見合った心拍出量の増加が徐々に起こらなくなる。これが分かりやすく表現されているのが、フランク・スターリングの曲線だ。
 
 
 こうなってくると、うっ血を解除する必要が出てくる。うっ血は一度し始めると、介入しないと止まらない「悪循環」に入ってしまう。
 この介入が、stage C 心不全の「急性増悪」への治療だ。酸素投与と、安静と、点滴薬(利尿薬と血管拡張薬)が有名だ。それに加えて慢性期に再入院しないための「サプリメント」的な薬が徐々に調整されていく。このあたりは主に医師の仕事になる。
 
 落ち着くと、元の生活に戻れるようになる。でも、健康な人ほどの体力には戻らない。心不全stage Cの人は、そもそもの体力が(程度の差はあるけど)低下している。それにあまり自覚しない間に、「うっ血」が起きてしまっている。この「うっ血」をある程度改善させた状態が「代償期の慢性心不全」になる。
 
 代償期の心不全患者さんは、体力に見合った生活をして、不摂生をしないで、薬をきちんと飲んでいるとこの状態が維持できる。逆に言うと、これらが出来ないと「再増悪」して入院加療が必要になる可能性がある。
 「慢性心不全の管理」においてコ・メディカルには、その意味でとっても大事な役割がある。
 
 心臓内科医(あるいは心臓外科医)の仕事は、心臓が悪くなった原因の治療(心疾患の治療)だ。
 患者は心疾患そのものがあるから、慢性心不全のレールに乗っている(心疾患がない人もいるのだが、、、)。そのため、心疾患そのものを治せば、心不全のレールから外れる、もしくは遙かに体力が上がって再増悪しにくくなる。
 弁膜症の根治が目的なら手術(TAVIもあるけど)、虚血があればPCI不整脈があれば薬物/非薬物(アブレーション/デバイス)療法を。もちろんどうにもならない疾患もいくつかある。拡張型心筋症はβ遮断薬が効けばラッキー。サルコイドーシスは早く診断がついてステロイドが効けばラッキー。他に、珍しい病気にも、治療法があるものもある。そういうものへの介入は医師の仕事だ。
 
 医師の役割はこのようにもちろん大きいのだが、それでも心不全患者さんの管理で重要な役割を占めるのはコメディカルのみんなであることは疑いようがない。
 
 ①体力を適切に評価し、それに見合った指導をしてあげること。リハビリすること。②塩分制限・水分制限を指導し、内服薬の大事さを説明しコンプライアンスを維持すること。③増悪の徴候について説明し、増悪時の受診方法などをしっかり説明していくこと。じかに患者さんと関わる中で信頼関係を確立し、これらを指導してもらえると非常にありがたい。